令和2年度上級講座(緑サポーター養成研修)

 日時:令和2年10月24日(土)9時30分~14時30分

会場:武田の杜サービスセンター

講師: 堀 大才 先生(NPO樹木生態研究所 代表理事)

演題:「樹木の総合診断と報告書の書き方の概要」

   9時30分~10時30分 座学

   10時40分~12時 片山山頂資料館樹勢総合診断

      13時00分~14時30分 まとめ

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樹勢総合診断

1.診断のための概況調査

 調査対象木の正確樹種(品種)、形状、管理内容、その木にまつわる伝説等の基本的事項及び生育環境の概況について、現在調査や聞き取り調査により記入する。

(1)聞き取り調査

 診断対象樹木の状態がいつ頃どのように変化してきたか、いつ頃どのような症状が現れたかを、所有者、管理者近隣の住民などに詳しく聞く。過去の状態を知ることができる文献や写真は地形の改変や環境の変化、また、日常の管理状況について詳しく調べることで樹木がどのような状態に置かれているかを知る。

(2)周辺環境の調査

 樹木の周辺の地理的状況や地形を調べる。特に付近の建物排気口、煙突、排水、道路、交通量、日照量、風通し、水の流れ、土地の利用状況など詳しく調べる。

2.衰退度の判定

 樹木の上部を詳しく調べようとすれば、大木であればあるほど大掛かりな足場、高所作業車あるいは熟練したロープワークが必要である。それにはかなりの費用がかかり、その上危険を伴うので、無理であれば双眼鏡を使う。

 樹木の衰退度は表-1に示すような評価基準にのっといて詳しく観察する。冬期の落葉樹では葉の評価は省略するが、代わりに冬目や小枝の状況をよく観察する。

(1)樹勢

 全体を見ての最初の印象で評価する。各評価項目を総合したものも樹勢を表すことになるので、評価が重なることがあるが、最初の印象と各評価項目の合計による評価との差がなければそれでよく、差が生じた場合には調整機能を果たす。

(2)樹形

 十分な樹冠をつけているかどうか、片枝になていないか、幹の傾斜の程度などを見て判断する。

(3)枝の伸長量

 樹冠のなるべく高いところの当年枝あるいは前年枝の伸長状態から判断する。下枝や胴吹き枝は評価対象としてはならない。

(4)梢や上枝の先端の古損

 樹冠の高い部分が枯れるのと低い部分が枯れるのとでは意味が異なる、高い部分が枯れている場合は、乾燥や何らかの根あるいは幹の障害で高い部分まで水があがりにくくなっていることを示す。

(5)下枝の先端の古損

 下枝がかれていても、それが自分の上枝に覆われて日照不足となり衰退した場合は当然の生理作用であり問題はない。

 他の木や建物の影響で枯れたり下枝に十分日射が当たっていながら枯れている場合はマイナス評価となる。

(6)大枝・幹の損傷

 大枝の著しい損傷や強度剪定、フラッシュカット(枝を剪定する際に切断面が幹とすれすれに平行に平滑となるようにして、枝を支えている幹の隆起を残さない切り方)は幹を削り取ることになる。樹皮の損傷等があるかないか否かで判定する。

(7)枝葉の密度

 落葉樹の落葉期は小枝や冬芽の量で判定する。葉は樹木のエネルギーの生産工場であるので、葉の量は樹木の活力をそのまま表す。剪定による葉や芽の量の低下もマイナス評価とする。

(8)葉の大きさ

 葉の大きさはその樹の水分条件をよく表す。乾燥が続いたり根系の発達が制限されて十分な水分が吸収できない場合、葉が小さくなることが多い。

(9)剪定後樹皮の巻き込み

 剪定痕の新生樹皮の発達状態から判断するが、剪定痕がなくても、自然古損枝のブランチカラー部分の盛り上がりや樹皮形成の状況から判断する。

(10)樹皮の状態

 樹枝表面の傷、腐朽菌実体、コルクの新陳代謝の速度、蘇苔類・地衣類の付着状態等から判断する。活力旺盛な木は樹皮の新陳代謝が早く常に新鮮な状態であるが、活力が低くなると樹皮が汚れたり、地衣類の付着が著しくなったする。また、同一個体の中の部分的な樹皮形成の遅延にも注意する。

(11)胴吹き・ひこばえ

 病害虫や被圧により葉が減少して樹勢が衰退すると、胴吹きや根元らからのひこばえの発生が見られるので、その有無も活力の一つの指標となる。しかし、中にはクロマツやモミのように一切胴吹きをしないものや、逆にカヤノキのように針葉樹であってもひこばえをよくだすものもあり、樹種により評価対象とするか否かをきめなければならない。

 全般的には針葉樹は萌芽枝がすくなく、広葉樹は多い傾向がある。可能な限り多くの樹種特性を知る必要がある。

3.病気の診断

 病気とは病原体などが原因となって、植物の代謝、成長、文化、生殖が撹乱あるいは阻害された状態であり、この病的状態の形態的発現が病徴である。同じ病気でもその病徴は、発病植物の生育段階、発病器官、環境条件によって異なることがあり、また、病気の進展に伴っても継続的に変化する。

 羅病植物の病徴部、あるいはその付近には病原体が存在しており、この病原体が菌糸、菌核、胞子などの栄養器官・繁殖器官を形成していることが多い。このような病原菌の器官は、病徴とともに病気の診断、病原菌の同定に重要な役割をもつ。病徴種類は次のとおりである。

(1)全身的病徴(植物体全身にわたる)

 ①萎縮:節間が短縮し、小葉経が叢生する。

 ②徒長:節間が過度に伸長する。

 ③萎縮:植物の地上部がしおれる。根が枯死、腐敗しているか、茎、根の維管束部が褐変している。

 ④変色:黄化、白化、銀白化など。

(2)増殖性病徴

 ①こぶ:根、茎などが異常に肥大し、球形、扁球形ないし紡錘形になる。

 ②がんしゅ:こぶに似るが、表面が細かいいぼ状になり、ざらつく。

 ③てんぐ巣:組かい枝が叢生し、葉は小形化、変形する。

 ④肥大:葉、果実が膨れ上がり、もちのようになる。

 ⑤縮葉:葉が不均等に波うったように変形する。

(3)腐敗性病徴

 ①軟腐:柔組織が腐敗し、湿潤、軟化する。 

 ②乾腐:柔組織が腐敗するが、軟化せず、乾固する。

(4)枯死性病徴

 (1)葉枯(葉焼)

 (2)枝枯、胴枯:樹木の枝や幹の一部あるいは全体が枯死する。

(5)局部的病徴(器官の一部に限られる)

 ①そうか:病斑がコルク化し、かさぶた状になる。 

 ②かいよう:病斑周囲がかさぶた状に盛り上がり、中央部はややへこむ。

 ③斑紋、斑点:円形~類円形の病斑で、組織は壊死し、灰白色~暗褐色を呈する。

 ④汚斑:斑紋に似るが、輪郭が不明瞭であり、かつ、病原菌の分生子などを伴い、汚白色~灰褐色にみえる。

 ⑤条斑:単子葉類にみられ、病斑が葉脈に沿って伸長する。

 ⑥角斑:葉脈に囲まれた多角形の斑紋。

 ⑦輪斑、輪紋:斑紋に似るが、病斑は濃淡褐色の同心円状を呈する。

 ⑧穿孔:班点の壊死組織が脱落し、小孔を生じる。

4.外観による樹木の危険度判定

 樹木の危険性を判定する場合、まず目視による「外観調査」から始め、その結果大きな危険が内在していると予測され、その程度を正確に知る必要があると判断された部分を、機器類で測定るのが正しい手順である。材を傷つける機器の適用はあくまでも材のある部分、問題のある木に限定する。

 (1)生育状態、立地状況

 樹勢の良し悪しから被圧状態(樹林から並木か草木か)、周囲の樹木に対する突出状態あるいは、他の樹木からの被圧状態、風当たりの強さ、人や車輪との接触頻度(沿道や公園か庭園か)、樹木の位置(外周か林内か)建物との位置関係等を観察し、風倒、幹折れ等の立地的な危険な場所でなければ、倒れやすい状態であっても危険木ではない。

 (2)樹種特性

 針葉樹・広葉樹・単子葉類の別、樹高(堅さやねばり)、腐朽の受けやすさ、穿孔害虫の受けやすさ、根の張り(深根性か浅根性か、根張りが大きいか小さいか)等を判断し、その樹種が本来的にもつ力学的性質を判断する。特に針葉樹と広葉樹ではあて材成形など力学的変化に対する適応反応が異なるので、樹種特性についてはよく調べ、事前の知識としてもっていることが重要である。

   (3)樹冠の形状

 樹冠の形(円形か楕円形か円錐形か)、幹の太さ、高さと比べての大きさ、下枝の多少、梢端の枯れ下がりの有無、枯れ枝の多少、枝葉の密度・量・色、樹冠のまとまりと偏り等から強い横風を受けた場合の抵抗状態を判断する。

 (4)大枝の状態

 折損枝の有無、枯損枝・衰退枝の有無、亀裂、異常な肥大、腐朽、損傷、腐朽菌の子実体、樹皮の内包(入り皮)、付根の下向き側の積しわ(積しわがある場合は枝が次第に下がっていることを示す)、ブランチカラーの明瞭さ(ブランチカラーが明瞭な枝は成長が衰えていて幹の成長との間に差が生じていることを示す)等から大枝の安全性を判定する。

(5)幹の状態

 大きな損傷、大きな剪定痕(特にフラッシュカット)、異常な肥大、腐朽、サルノコシカケ類などね子実体、空洞の開口角度、樹皮の内包、死んだ樹皮(浮いた樹皮)、幹の傾斜、傾斜した場合のもち直し(サーベル状樹木)、亀裂等から幹の安全性を判定する。

 (6)根元状態(根張り部分)

 腐朽菌等の子実体、外観上観上明らかな腐朽、異常な肥大、死んだ樹皮、亀裂、覆土、周辺の地盤高の変化、道路工事等による根の切断、根が十分伸びられるスペース、傾斜木や片枝木の引張りあて材側支持根の存在、傾斜の反対側の根元の土の盛り上り(浮根か否か)、建物等による根張りの制限、踏圧等から判定する。地際部においては根元周辺をいくらか掘って支持根の発達具合をみる必要もある。

 以上の外観調査の結果、重大な欠陥が認められ樹木についてフラクトメーターⅠ、Ⅱ、インパルスハンマー及びレジストグラフによる精密診断を行う(場合によっては工業用内視鏡も有効である)。また、外観から判定しにくい状態ま(覆土などによって根元のあて材の状態が判断しにくい時など)の場合、あるいはより安全を期す場合には、これらの機械による計測や土壌根系調査を外観調査と一緒に行うことも必要となる。

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  座学で、樹木の項を学んだあと、数十分程度登った片山山頂資料館前で、樹勢総合診断を行ないました。 

 まずは各自診断する樹木を選び項目ごとに観察して総合点で評価しました。   

 代表者が自分の選んだ樹木の評価点を発表して、皆さんは自分の評価点との違いは何処かを検証し、更に先生から要点の解説で皆さんで納得する。 

 

まとめ、樹木の力学的適応

 樹木はその時々の状況に応じて、樹体を最も力学的に安定した状態、つまり最適化した状態にしようと努力しており、それが樹形に表れてくる。

1・樹冠の働き

 樹冠の形は力学的に極めて大きい意味を持っている。独立し風当たりの強い所にある木ほど大きな樹冠を持っており、林内の木ほど樹冠は小さい。樹冠が大きいく広がり、下枝が発達した樹形は風に対する抵抗性が非常に高くなる。

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2・樹幹の形

 高木性樹木の樹幹形状は針葉樹と広葉樹で大きく異なり、針葉樹は基本的に単幹であり、広葉樹は幹下部では単幹であるが、上方では複数に分岐するが普通である。針葉樹でも孤立木と林内木では幹形が異なり、下枝の発達した孤立木では根元が太く幹の上下の直径の差の大きい、いわゆる「ウラゴケ」となっているのに対し、林内木では根元径が小さく幹の上下の直径の差の小さ、いわゆる「完満」となっている。

3・幹の肥大成長と応力

 風が吹くと幹は樹冠全体の揺れに応じて曲がる。その結果風下側の幹表面近くに強い圧縮力が生じ、風上側の幹表面近くに強い

張力が生じる。反動で風上側に曲がればその逆となる。

幹の中心部や風向に対して側面に当たる部分ではほぼ中立の状態である。

 つまり、樹幹は表面近くが圧縮、引張り双方の力を常に受けているのに対し、幹の中心近くは樹幹の重さからくる圧縮だけである。

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4・亀裂

 樹冠大枝の表面に見られる樹皮の割れは材の亀裂をあらわしていることが多い。例えば、幹の両側の軸方向に長い割れが見られたときは、幹が強い曲げ荷重を受けて縦断方向に亀裂が入ったことを示している。

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5・叉の入皮

 普通の広葉樹の叉はブランチバークリッヂが明瞭であるが、樹幹と枝の叉あるいは双幹木の叉に樹皮が挟まっていると、幹同士あるいは幹と枝が十分に引き合ができない。そのようなとき、叉の両側面がしばしば盛り上がっている。これは、内包された樹皮が亀裂と同じ動きをしてその端に応力が集中するので、樹木がその部分の成長を速めているためである。

7・ねじれ

 樹幹や大き枝がねじれて螺旋木理となている状態はしばしば観察される。ザクロ、ソメイヨシノトチノキクロマツなどは遺伝的なものであるが、どちらの方向にねじれるかはその時の幹の傾斜や風向により変わる。ゆえに遺伝的に螺旋木理を形成しやすい樹種も、林内でほぼ無風状態におかれると螺旋木理を形成しないことがある。遺伝的にそのような性質でない樹種でも螺旋木理はしばしば観察される。

8・しわ

 枝の付け根の下側や幹の根元の張り出しのように内側に湾曲した部分では、しばしば横方向に蛇腹のようなしわが見られる。このしわは、ケヤキやエノキのような樹皮の薄い樹種でははっきりしているが、クヌギのような樹皮の厚い樹種でも、あるいは針葉樹でもよく見れば形成されているのが分かる。これが形成される原因として二っのことが考えられる。

 一つは湾曲部が成長する距離がかえって短くなり、形成層の成長があまってしまうためであら、もう一っは大枝が自分の重さで少しずつ下がって下部を圧縮したり風荷重が根元を圧縮するためである。

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9・あて材

 樹木は幹が傾斜したり片枝だったりして地上部の重心が根元の幹心の真上からずれるとあて材を形成して幹を起こそうとする。あて材は枝にも存在する。あて材の形成は針葉樹広葉樹で異なり、針葉樹では傾斜した幹あるいは枝の傾斜下向き側に体を押し上げるように圧縮あて材を形成する。 

 広葉樹では逆に上向きを側に体を引張るような引張りあて材を形成する。その結果、傾斜した幹も上方では直立することができ、横に伸びた枝も下垂せずに上に伸びることができる。

10・根張り

 樹木の根は養水分を吸収するためと体を支えるために存在する。樹木は葉から水を多量に蒸発するので、十分な養水分を吸収するにはそれに応じた根の広がりが必要である。乾燥した所や風の強い所に生えている樹木は広く深く根を張り、湿潤な所や風の弱い所に生えている木は狭く浅い。また、土が固結した所では根張りが極めて浅く、土壌の浅い尾根筋や重機による造成のため硬盤が形成されている背悪な土壌では、根系がしばしば地表に表れている。根系が地表に表れるほど固結した所では、根は樹体を支えるために極めて広く広がる必要があり、ドイツでは、根元から40m離れた所からも力学的に有効な働きをする根が発見されたという例もある。  

 根系の分布はあて材の形成とも関係があり、針葉樹は傾斜下向き側に太い根を深く差し込むように発達させ、広葉樹は傾斜上向き側に、広くネットを広げるように根を発達させる。

 また、同じ針葉樹でもスギ・ヒノキとマツでは異なり、スギ・ヒノキは斜め下方に支柱のような根を発達させ、マツは深く杭を打ち込むように根を発達させる。

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 今回の令和2年度緑サポーター養成研修に会員7名が参加しました。朝から初心に戻り熱心に聴講すると講義が進むにつれて以前学んだ記憶が次第に戻り、段々と理解度が高まり楽しく学習する事が出来ました。

 今後は、多くの会員が参加して、再び学び直す事で皆さんの意識改革が高まりつつ、会の積極的な活動に繋がるかと思います。

                     以 上